日本アロマコーディネーター協会会報誌「香羅夢」掲載原稿

アロマスクール ラヴァーレの視覚障がい者様向け講座のご案内ページです。
ラヴァーレ主宰 菅野千津子かんのちづこによる
JAA会報誌「香羅夢」
NO.46掲載原稿
平成20年4月20日発行

なぜ、アロマに出会ったのか

以前の私はエステティシャンとして、大手エステティックサロンに就職をしました。時代はバブル期で、今では考えられないほどの多くのお客様に恵まれ、実務を経験させていただきました。

お客様とのコミュニケーションも濃密になるにつれ、私たちスタッフが過食症などの精神的な悩みや、生理不順などのお体のご相談を受けるようになってきました。

お客様のエステティシャンに対する期待値も上がってきます。そこで、何かもっと効果的なものはないのだろうか?と考えるようになりました。

その時にアロマセラピーに興味を持つようになりました。私自身も仕事と育児の両立で癒しを求めていたのだと思いますが、アロマセラピーを活用した施術なら、もっと多くのお客様の要望にも、お答えできるのではないかと考えるようになったのです。

そして、いつか自分のお店を持ちたいと願うようになり、15年間経験を積ませて頂いたエステティックサロンを退職し、2000年に千葉県にアロマサロンとスクールの併設店をオープンしました。

その後、スタッフや多くのお客様に恵まれて、地域にアロマセラピーを広げていきたい、出来るだけ多くの人にアロマセラピーの効果を知っていただきたいという私の目標は近づきつつありました。

きっかけは、視覚に障がいを抱える方からの一本の電話

しばらくして、スタッフがある一件の電話を取りました。そして私のところに 「視覚に障害のあるかたですが、通学はできますか?あと盲導犬も一緒に連れてくるのは可能ですかとおっしゃっていますが…。」

言い訳になりますが、その時、私は次のレッスンに入る間際で、生徒様をお待たせしていました。自分に余裕がなかったせいもありますが、今はそのような状況が整っていないのでお断りするよう何のためらいもなく指示をしてレッスンに入ってしまいました。

レッスンが終わり、スタッフにその後のことを聞くと、 「『やっぱりそうですか…。どこにかけても同じ事を言われてしまうんですよね。』と仰っていました。私はそのようなかたにこそアロマセラピーで癒して差し上げたいと思うんですけど…。」と、しょんぼり言われてしまいました。

考えてみますと、視覚に障害のあるかたは、あん摩マッサージ指圧師のお仕事をしているかたも多く、施術でアロマも取り入れたいと思うかたが多いことに気がつきました。

その時に、あっさりとお断りしてしまった自分がとても嫌な人間に思えました。一人でも多くのかたにアロマセラピーを伝えたいと決心して始めたはずなのに、いつのまにかこちらの都合でお客様を選んでいるような、そんな思い上がりの強い人間になってしまった自分が恥ずかしく思えたのです。

決心のないまま、過ぎていく時間

しかし、現実問題として視覚に障害のある生徒様を受け入れたいと考えたとき、果たして今の私の実力で教えられるのか?これが一番の不安点でした。自分の暮らしの中で、視覚に障害のあるかたと接したことはほとんどなく、どのようにコミュニケーションを取ればいいのかさえ分からない状態です。

自信のなさも手伝い、その出来事のあった時には、「いつかはやりたい」と思うことで自分の胸の中にしまってしまいました。その後も何度か同じようなお問い含わせを受けてはいたのですが、決心がつかないまま時間だけは過ぎていきました。

とあるご縁が、もたらした決意

ある時、視覚に障害のあるかたにコーチングを教えているかたから、そのかたの生徒様の女性がアロマセラピーに興味があるので一度会って話を聞いて欲しいというお話をいただきました。

その女性は、27歳くらいの若いかたで、徐々に視力を失っていく病気を抱え、いずれ全盲になるだろうと医師から言われていました。

いろいろなスクールの説明会に参加したりしたのですが、健常者の女性と一緒に講座を受けることに抵抗があり、視覚障害者だけの講座を開いてくれないかとのお話でした。

私はその時に初めて障害を持っているかたと膝をつき合わせてお話ができたように感じました。やはり視覚に障害のあるかたが、生き生きとアロマセラピーを学んでいただける場所を作りたいと心から思ったのです。

せっかくやりたいと言って下さっているかたが目の前にいらっしゃるのに、お断りをすることは、何か違う気がしました。こうして、彼女との出会い、そのきっかけを与えてくださったかたとのご縁から、私の気持ちは固まっていきました。

コミュニケーション手段の模索

視覚に障害のあるかたとのコミュニケーションを取るには、まずは、その方々の生活を知ることだと思い、どのようなことをして欲しいと思い、逆にどのようなことはして欲しいと思わないのか?また、どのような言葉を使っていいのか?などとあれこれ悩みました。

そんな時、何かいいヒントがあるのではと、点字図書館に飛び込みで入りましたが、この時、「何か?」と声をかけてくださったかたとの出会いも私にとっては運命的なご縁だったと思います。

そのかたに私のこれからの活動をお話したところ、とても応援してくださいました。 スクールを出店するには、道路の点字ブロックの充実度、音声信号のある場所が良いと、私では思いつかないアドバイスをいただき、「菅野かんのさんは、彼女たちにどのような言葉を使ってはいけませんか?と聞きましたが、昔通の会話をするのが一番です。かえって気を使われることのほうが嫌だと聞きますよ。但し一番傷つくのは、「やっぱりできませんでした」という言葉です。やるからには、それは絶対に言わないように覚悟してやってください。そのためなら、私は何でも力になりますよ。」とおっしゃっていただきました。

点字図書館に勤務して25年以上になる、視覚に障害のあるかたと接して来たかたの重みのあるお言葉でした。

本格的な準備のはじまり-教科書篇-

それから本格的な準備が始まり、最も苦労したのは点訳テキストでした。ボランティアで点訳をしているグループはたくさんありますが、私の場合は1冊、2冊でないことで業者さんを見つけることがとても大変だったのです。

ようやく盲学校の教科書を作っているという業者さんをみつけて交渉すると、「アロマの知識がないので」とはじめは断られてしまいましたが、それでも、しつこくお願いして、なかば根負け状態で何とか引き受けてくださる事になりました。

本格的な準備のはじまり-精油の計量篇-

今度はレッスンをシュミレーションした時に、視覚に障害のあるかたに、垂らした精油の滴数をどうやって分かっていただくかを考え、はじめは音の出る精油瓶を作れないかと考えました。

瓶のメーカーや精油の業者様、おもちゃのメーカーにも問い合わせました。しかし考えてみると、精油瓶にコストがかかるほど、気軽にアロマセラピーを取り入れること が難しくなることに気がつき断念しました。

もっと安くて良いものはないかと試行錯誤の結果、プラスチックのコップの上に、お弁当に使うアルミホイルのおかず入れをのせて、その中に精油を垂らすと、音が出てわかりやすいこ とに気がつきました。

これなら使い捨てで簡単に精油が計量できます。(ラヴァーレの実習はすべてその方法で行っています)

視覚に障がいを抱えているかたでも学べるアロマスクールがオープン

このような形で何とか準備が整い、2007年8月に視覚に障害のあるかたにも学んでいただけるスクールとしてアロマスクールラヴァーレを池袋に創業し、そして2008年3月25日には横浜校もオープンすることができました。

レッスンは点訳テキストを使いながら、健常者の生徒様と全く変わることなく行っています。わかりづらかった点や、よく出る質問などの重要な点は、各レッスン終了後にメールなどでアフターフォローをしています。

トリートメントの技術講座では、点訳テキストをその都度触るのは難しいことに気がつき、生徒様のアドバイスをもとに音訳テキストを作りました。

あらかじめ、作ったシナリオを音訳の専門の方に読んでいただき、「デイジー図書」という視覚に障害のあるかたが使う音声図書に録音してもらいました。

点字が苦手なかたもいらっしゃいますので、日本アロマコーディネーター協会認定 アロマコーディネーター講座のテキストも音訳テキストをご用意しています。

無いものをぜロから作り上げることは産みの苦しみもありましたが、それが出来上がった喜びはひとしおです。

また、盲導犬を連れてくるかたには入り口にペットの足の洗い場もあるので、安心して入っていただけるようになっています。(池袋校のみ)

協力いただいている皆様への感謝のことば

私がこのような形で視覚に障害のあるかたに受験対応講座を開講できたのは、協会のご理解や、ラヴァーレに一緒について来てくれたスタッフの支えがあったからこその事です。

そして、健常者の生徒様もとても温かく接して下さり、先日もスクールの1階で迷っていた視覚に障害のある生徒様に、 「もしかしてラヴァーレに行くので すか?」と声をかけてくださり、手を引いて教室までご案内してくださった生徒様もいました。

視覚に障害のある生徒様も、慣れない私たちスタッフにいろいろとお気遣いやアドバイスをして下さり、とても感謝しています。

何もかもが私一人ではできなかったことばかりです。 この活動につきましては、人とのご縁というものがこんなにもありがたいと感じたことはありませんでした。

多くの皆様のご支援やご協力があったからこそ、出来ていることだと思います。 この場をお借り致しまして皆様に感謝の言葉を述べさせていただきたいと思います。本当にありがとうごさいました。

おわりに

今では、視覚に障がいのある約50名近くの方がアロマセラピストの資格を取得して活躍されております。

今後は、生徒様・卒業生様達がアロマセラピストとして、インストラクターとして、私たちと同じようにもっともっと活動していけるよう、出来る限りのお手伝いを続けていきたいと思います。

活動は、まだまだ十分ではありません。アロマスクールラヴァーレスタッフ一同、心をひとつにして、これからも頑張っていきたいと思います。

アロマスクール ラヴァーレ
菅野千津子かんのちづこ

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